テスト描画レビュー / 色材と画材紙との親和性 描画性について
テスト描画は、当店在庫の用紙を使い、一般ユーザーに対する技術的アドバイスの一助として描いたもので、「色材と画材紙」の親和性や修正度合いについて実験するものです。結論としてではなく、一評価としてご理解戴き、少しでも資することができれば幸いです。
実験結果の細かなニュアンスは、 絵画教室コスモスデッサン会で紹介し、作品制作の工程を分解しながら皆さんと勉強しています。
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上達のためのワンポイント
イーゼルを用いるクセをつけましょう。
理想は三脚の垂直対面タイプですが、水を多量に使う場合などテーブル作業には、『モチツ モタレツ」(3サイズ)をおすすめします。
・視認性がよく、構図の誤差や明度差などの修正作業を軽減します。
・彩色時の水のうごきを確認しながら作業できます。
・驚くほどの軽量さと簡易性、携帯性に配慮した製品です。
・座高にあわせて描画角度を調整できるため、前かがみ姿勢による肩こりや腰痛などの身体的ストレスも緩和します。
・詳細は「卓上イーゼル」ページをご参照のうえ、お役立て戴けますと幸いです。
モチツSを使用したグラデーション参考水彩画 (紙のNG品としての参考画でもあります)
モチツSを用いた参考水彩画で、映画のワンシーンを思い出しながら描いたものです。谷の上から底に至るまでの空間がグラデ描写の参考になれば幸いです。モチツはグラデーション描画に適度な角度を持ち、絵具水はゆっくりと下っていきます。描画途中の制御も三脚イーゼルと異なり、テーブル上で素早く対応できます。
使用材料 モチツS パネル張り水彩紙120×400(㎜)透明水彩絵具 (モチツにパネル450×600㎜を乗せて描きました)
ワイド画面ですが、Sサイズでもしっかり保持しています。
残念ながらNG水彩紙例でもあります。
NG症状参考例(輸入紙 サイジング不良)
NG箇所は湖面に顕著に出ている黒ずんで見える斑点です。
水張りの段階でその症状がありましたが、あえて使用しました。これは滲み止めのサイジングが利かなくなっているものです。
一般的に「カゼをひいた」症状で、いかんともし難い事例です。
紙のサイジング不良(にじみどめ)について
画用紙のサイジング不良例で、水に浸して後ろからライトで照らした状態の画像。白い斑点箇所が不良の発生箇所で、ライト照射が透けています。
輸入高級水彩紙のサイジング不良例です。彩色後に裏面側へ絵具が染み出ています。表面の彩色側はガッシュで彩色し、何とか処理されていました。
一般的に「カゼをひいた」症状とは
画学紙(画用紙)も高級と呼ばれる水彩紙であっても、滲み止めが処置されています。紙を抄造するときに添加されるこの材料(サイズ材)が、単なる経年変化や何らかの要因によってその効果が弱まり、水を簡単に紙内部に引き込み、裏側へと貫通させます。この症状が出たところに塗り重ねてもそこだけがさらにくすんだ斑点になったり、ぐっと広くまとまった範囲でこれが発症することもあります。彩度が落ちてまったく目標通りの色彩が得られません。応急処置として、日本画で使われるドーサ液の塗布でしのぐことができますので非常手段として書き添えます。
ご参考までに、ワトソン紙では、こうした事例にこの30年出会ったことはありません。
波の様子について
絵画教室の生徒さんから「波の様子の描き方」について質問があり、下の異なる2タイプのサンプル画を描いてみました。
紙:F6 ホワイトワトソン300g 透明水彩絵具 生徒さんにはこのサンプル画を使って実際に練習を行って戴く事にしました。 ポイントは「波の動きを意識しながら白を残す」ことを観察しつつ、急がないで描くこと。
ワトソン紙の耐久度について 実験と思えば楽しい
最下段の人物水彩に脱色と加筆を限度一杯まで繰り返す実験です。
これ以上できないくらい、周りを脱色してみました。おかげで、いよいよ紙が破け始めました。水をつけては脱色し、さらに塗り重ねを加えてきた結果です。ワトソンに相当の耐久度があることが実感として分かりました。また、ここまで会得できたことは、単に彩色するよりも、まず幾層も塗って下地色をつくり、脱色し、最期に仕上げ彩色へとたどることが、複雑なニュアンスを伝えてくれることも学ぶことができました。一見して、透明水彩ではないような雰囲気になりました。
この先は、パステルをのせていきたいと思います。仕上がりましたら、アップします。
ワトソンはコットンを含有しており、繊維も長いためパルプ紙にくらべて吸水後の表面の崩れ度合いが弱いので、ここを利用してみました。
デッサン水彩であり、決してドラマチックな仕上がりではありませんが、適度な表面強度を活かした造形彩色も楽しめる紙です。
下に実験過程を紹介しました。せっかくの制作物を修正するには勇気が必要ですが、実験です。理解しているつもりでも、実験を通してみるとまったく稚拙だなあ、と思いながらの楽しい研究です。途中モノクロに置き換えて明度などをチェックします。
せっかくなので、下段の一次仕上げ作品の向きや視線なども変えてみました。
脱色後の表面に上描き彩色しても、通常通りのサイズ度を保持しており、いたずらに絵具が広がり出すということはありませんでした。これもワトソンの抄造技術でしょうか。
もうしばらく、造形を楽しんで、眉 額 あご下のつながりなどに修正を加え、一通りの完成をみたらサインを加えてアップします。
(ちなみに、使用している絵具は透明水彩絵具のみで、厚塗りはしていません。また、ホワイトやガッシュは一切使っていません。脱色は水 造形は消しゴム)
一次の絵を脱色開始
脱色と造形を進行1
脱色と造形を進行2
脱色と造形を進行3
脱色と造形を進行4
脱色と造形を進行5モノクロに置換して修正方向を観察
下の人物水彩をさらに分解して油彩風に描き直した経過画像を、上方にアップ。
化学サイズ材の水彩紙 ホワイトワトソン紙 F8カット判 透明水彩絵具(ホルベイン)
■にじみ止めの添加材には、化学製品とゼラチンが用いられています。
■ホワイトワトソン水彩紙のにじみ止め材は化学製品。紙の絵具離れが良いため、乾いた後であっても着色後の色を動かすことができ,色を抜いたり質感を出したりという表情表現が可能です。逆作用で色抜き時の筆が水を多く含んでいると、目標箇所の周辺まで色抜きしがちですので注意します。人物画の練習や油彩画のための研究にも有益な紙だと思います。
ちなみに、このサンプル画には白色の絵具は使っていません。
一方、絵具を捉える力に優れているゼラチンサイズ紙の場合、手早い紙上混色や色抜きが必要になります。放っておくとすっきりした彩色はできますが、淡泊な表現になりやすいです。
ワトソンはコットンを含有しており、ぼかしやにじみの効果も得られました。
デッサン水彩であり、決してドラマチックな仕上がりではありませんが、造形を楽しめる水彩紙としてもおすすめです。
下に制作過程を紹介しました。せっかくの制作物を修正するには勇気が必要ですが、実験です。
下絵途中
彩色開始1
彩色2
彩色3
一応の形をつくり、この後修正を図る
修正開始(勇気が必要)水洗いで、各所を脱色し、整える
修正完了1
造形を整える さらに修正完了2へ
■使った画材一式
消しゴム
筆:10号ラウンドセーブル 10号ナムラSKライン ナイロン平 ナムラPCセーブル 刷毛
鉛筆(下絵用)
ホルベイン透明水彩絵具
支持体:ホワイトワトソン300gを木製パネルに水張り