海野光弘 木版画作品  版画紙のシワ、裂けの解消

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■海野光弘 木版画:「風の黄昏」(1975作品)色材:墨汁とポスターカラー  支持体:紙(鳥の子紙)

参考例は、長年にわたり額縁のなかでシワが入っていた作品で、経年変化によるアクも視認できました。これらを、ダメージを極力抑えて解消する参考例です。

 

海野光弘の作品展は下記会場で行われています。詳しくはホームページからご確認ください。

静岡県島田市博物館分館(海野光弘版画記念館) https://www.museum.or.jp/museum/4410

静岡県静岡市の「こだわりの果物屋 紅光」さま https://www.benikou.com/gallery/unnno-mituhiro.html

 


状態確認 テープ止め状態

周囲をテープで廻し止めしてあり、支持体紙の伸縮自由が利かなくなり、シワが固定化したものと思われます。

 

裏面の状態

版画作品の基材紙質は、伸びの少ない局紙または鳥の子紙と思われ、折り癖が残る可能性が大。

シワが天地左右、中央に斜線状にのびたものも見受けられます。

 

※後日、正規に確認したところ、紙は「鳥の子紙」とのことでした。

 

茶色の色素は、額縁の裏板側からの水分の侵入にともない、ベニヤ板のアクが加水分解され本紙に移行したものと思われます。

テープで動きがとれず、シワよりとして型取られたような感じです。

表面状態 2カ所の裂け

・裂け方は、垂直ではなく、重ね合わせの破損。

・シワの折れ方が天地左右にあり、堅く、その凹凸は角張った状態。

・アクが空の部分に視認できます。

影響テスト

水とアルコールとの混合液を局所的に与えて版画色材の溶け出し等がないかを確認。裂け補修工程で用いる水が与える影響など、何かしらの変化を評価するために、あらかじめ局所に影響テストを行います。

 

影響テストにより、経年によるアクの染み出しが確認されましたが、色材の流れ出しはありません。従って紙全体の洗浄により、アク洗い出しとシワのばしを企図。

 

カラー色材は、作家がよく使っておられたポスターカラーと思われますので、洗浄時はこれが希釈褪色ないように注意します。

黒色ベース色は墨汁と思われ、流れ出しの不安はあまり持たなくても良いと思いますが、用心します。

裂けへの裏当て

楮紙の外周を喰い裂き、長さをそろえ、調合した中性糊を塗布して裏打ち。

これは、洗浄作業中さらに裂けないよう念のための仮裏打ちです。

 洗浄作業 1回目

紙全体を洗浄液で満たし、しばらくしてから水で洗い流します。

隠れていたアクが浮かび上がります。この工程を繰り返し、適度なところでやめます。やりすぎると、作品の風合いなどを損ねる場合があるのでやり過ぎに注意します。

 

画像では下方に流れ出たアクが見られます。

 洗浄作業 3回目

全体的に濃いアク染みが解消されてきました。

吸湿にともなう支持体紙のシワも落ち着きを取り戻した感じです。

洗浄作業はこの辺で止めることにします。

 洗浄作業終了の状態

シワが当初の角張った状態から丸みのある状態に変化。一般的な和紙のような伸びのない紙質で、中央にかけて走る斜線折りも確認できるほど残っていました。

 

紙に添加されていた滲み止め剤が消失し、裏抜けして染みのように見えますが、乾けば消えていきます。

自然乾燥途中の状態

アクの洗浄で明瞭感が創出。左右の折れ癖は、角張った傾向から

緩やかな円弧状に落ち着きました。

下部は、ほぼ解消しました。

紙目の繊維方向が割合いにあるので、パルプ配合紙かもしれません。

 

この後、裂けていた2カ所のうち、一つだけを裏打ちで貼り合わせ、残りは紙の伸縮を逃がすための解放口としてそのまま残しました。

 

紙のpH中和のため、炭酸カルシウム溶液への浸潤も考慮しましたが、実施は見送りました。

プレスによる伸ばし

ある程度乾燥した状態で熱プレスを用いましたが、シワは消えてきれいに伸びました。普通に乾燥させても湾曲シワとして残ることが予見できたので、熱プレス機によりば伸ばしました。

(熱プレスは当然ですが、直当てはしません)

薄い和紙の場合は裏打ちで解消できますが、今回は200g程度の厚い紙でしたので、この方法を用いました。

額装時は、額縁の裏板(ベニヤ)からのアク移行をブロックし、同時に作品に安全なスーパーバリアシートを設置しました。

 

持ち込み時点に比較してみると作品の明瞭さが蘇りました。

海野光弘氏の人間味が伝わってくるようです。

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